[BlueSky:07080] Re: 本のご紹介_ナオミクライン『これがすべてを変えるー資本主義vs気候変動』

Takeshi SUKA sayasuka_380878 @ kce.biglobe.ne.jp
2021年 7月 16日 (金) 15:26:41 JST


青空メーリングリストのみなさま

先日、ナオミ・クラインの著書『これがすべてを変える』
をご紹介しました。

そのなかに2つの誤りがありましたので、訂正いたします。

1:広井良典さんのお名前の表記をまちがえました。
   (誤)広井佳典『ポスト資本主義』(岩波新書)
   (正)広井良典『ポスト資本主義』(岩波新書)
  つつしんでお詫び申し上げます。

2:「奴隷貿易」と「奴隷制」を区別して書き分けるべき
  ところで、「奴隷貿易」にそろえてしまいました。
  そのため本の内容のご紹介が不正確になりました。

  産業革命に先立つ近代資本主義の成立過程で、
  「奴隷貿易」は重大な意味をもちましたが、
  脱炭素に対比すべき歴史上の変革としてこの本で
  示されているのは、「奴隷制」の廃止です。

(学生のころ「アフリカ研究会」というサークルに入って、
あそんでいただけでなく、少しだけ勉強もしたはずですが、
そのあそびと勉強の比率がどの程度のものだったかに
あらためて気づくことになり、お恥ずかしいばかりです。)

ご紹介した訳書から引用します。

「アフリカやカリブ海諸国の政府は、機会あるたびに(中略)
大西洋奴隷貿易の賠償を求めてきた。」(下巻 p.555)

「マンチェスターやロンドンの繊維工場や製糖工場は、
植民地で生産され、大半が奴隷労働によって収穫される
原料綿やサトウキビを大量に必要としていたが、それら
の工場には地球を温暖化させる石炭が動力を提供した
のである。」(下巻 p. 556)

「そして今や明らかなのは、奴隷制が廃止され、あるいは、
植民地支配の企てが失敗したときに、この収奪が終わらな
かったということだ。」(下巻 p. 557)

「十九世紀半ばの奴隷制廃止が経済に及ぼした影響は、
徹底的な排出削減のもたらす影響といくつかの点で
驚くほど似通っていることを、複数の歴史学者や評論家
が指摘している。」(下巻 p. 609)

「運命を分けるこの一〇年間に求められる文明的な
跳躍に少しでも希望をもとうとするなら、私たちは
人間性への信頼を今一度取り戻す必要がある(後略)」
(下巻 p. 617)

以下、訂正した文章を再掲いたします。
失礼いたしました。

    須賀 

-----Original Message-----
Subject:訂正 [BlueSky:07077] 本のご紹介_ナオミクライン『これがすべてを変え
るー資本主義vs気候変動』

青空メーリングリストのみなさま

ごぶさたしています。いかがおすごしでしょうか。
新型コロナウィルス感染症の流行以後、多くのことが変わりました。
米国の政権交代があり、気候変動対策が加速し、
グリーンリカバリーやグリーンニューディールといった政策や方針が
聞かれるようになりました。経済システムと地球環境とのかかわりが
広範に議論されるのを聞く機会が増えたように思います。

このような議論に大きな影響をあたえたという
カナダ人ジャーナリストの著作
ナオミ・クライン著 幾島幸子・荒井雅子訳
『これがすべてを変える―資本主義vs気候変動』(上・下)岩波書店
を読みました。訳書の本文で上下巻あわせて600ページ以上ある本で、
半年くらいかけてやっと読み終えました。

この本の基本的な主張は、冷戦終結後に世界を覆うようになった
新自由主義のイデオロギーのもとでその推進者たちの自発的な
取り組みに期待しまかせておいたのでは、気候変動の危機への
対策は到底まにあわない、ひとびとやコミュニティの連帯、
先住民の権利回復の要求いった草の根の運動をネットワーク化し、
公共政策を復権し、化石燃料を分散型の再生可能エネルギーに
置き換える取り組みをグローバルサウスを含め世界的に推進するべきで、
そうした動きはすでにすすみつつあり、希望がもてる、というものです。

そうした動きを幅広く多面的に取材し、
気候変動への懐疑論が組織的に米国の一部の企業グループやその
イデオロギー活動と結びついている様子、米国の一部の環境運動が
そうした企業の戦略に取り込まれ骨抜きにされた様子、
これに対する世界的な草の根の運動の展開、とりわけ北米の先住民の
権利要求の運動とそれに対する非先住民からの支持の広がりなどを
生き生きと描写しています。

また産業革命に先立つ奴隷貿易などの大西洋貿易の時代から
近代資本主義の歴史をふりかえり、脱炭素に比べられる歴史上
ただひとつの経済システム上の大変革は、奴隷制の廃止である
としています。そして奴隷制廃止のプロセスがそうであったように、
この変革の真の原動力となりうるのは、経済的な損得勘定よりも、
人間としての根本的な価値をめぐる認識だとしています。

わたしは、脱炭素を奴隷制廃止にひきよせる
この歴史的なパースペクティブの議論に強い印象を受けました。

地球環境の限界に直面して資本主義の成長が
歴史的限界に直面しつつあるという議論は、
水野和夫『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書)
広井良典『ポスト資本主義』(岩波新書)
玉木俊明『ヨーロッパ覇権史』(ちくま新書)
などの本にもあります。
SDGsにもそういう認識が反映している部分があると思います。
ですので、資本主義に気候変動を対置するナオミ・クラインの本の
図式には、あまり驚きませんでした。このあとにくる世界が
どのようなものになるかを十分見通しきれないことも
共通しているように思います(それはだれにもむずかしいことでしょう)。

けれども、脱炭素が奴隷制の廃止と歴史上同レベルの変革に
位置づけられるをみたのははじめてで、大きな議論だ、
と心を動かされました。

この本の原書が出たのは2014年です(和訳は2017年)。
SDGsとパリ協定が世界的な合意に至ったのは翌2015年です。
この本は多くの言語に翻訳されて広く読まれたそうです。
もちろん著名なジャーナリストが書いたこの本の内容と
各国政府の合意文書であるSDGsやパリ協定の中身は別のものですが、
そうした世界的合意ができあがっていくプロセスに、
この本の問題提起は影響をあたえたのではないでしょうか。

少なくともわたしはこの本を読んで、
SDGsの精神が、一歩深く理解できるようになった気がします。

ご参考になりましたらさいわいです。

   須賀 丈








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