[BlueSky:06996] 本のご紹介:小西雅子『地球温暖化は解決できるのか―パリ協定から未来へ!』

Takeshi SUKA sayasuka_380878 @ kce.biglobe.ne.jp
2016年 9月 4日 (日) 10:02:50 JST


青空メーリングリストのみなさま

昨年末の気候変動枠組条約COP21で採択されたパリ協定について、米国と中国が批准
したと共同発表しましたね。パリ協定は発効に向けて大きく前進、とのことです。
(たとえばこの記事)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201609/CK2016090402000113.html

このタイミングでの共同発表には米中両国首脳の政治的思惑も多分に反映しているの
でしょう。しかし温暖化対策への国際環境が大転換していることはまちがいなさそう
です。この米中両国はもとより、日本やロシアも参加しなかった京都議定書の第2約
束期間からは大きな変化です。

小西雅子『地球温暖化は解決できるのか―パリ協定から未来へ』(岩波ジュニア新
書, 2016年)は、地球温暖化対策をめぐる国際交渉の歴史とパリ協定の意味につい
て、とてもわかりやすく簡潔にまとめています。(以下、838字です。)

京都議定書の経緯からもわかるように、国際条約には強い拘束力をもたせるほど参加
国が減ってしまうというジレンマがあります。そのジレンマをいかに解決するかがパ
リ協定の重要ポイントでした。そのため削減目標の達成は義務とせず、5年ごとに目
標をレベルアップして対策を実施し、自国の削減状況を国際的に報告・検証しあうこ
とになりました。また長期的な気温上昇を産業革命前に対し2度(できれば1.5度)
以内におさえることになりました(このことを著者は、「パリ協定の最も偉大な功績
は、“科学と整合する協定”であることです」と評価しています)。

日本の今後の温暖化対策については、「どのエネルギーを選択するかが温暖化対策そ
のものと言っても過言ではありません」としています。そして省エネや低炭素化のさ
まざまな技術のうち重要なものとして、再生可能エネルギー、原子力、CCS(炭素
回収貯留)をあげ、それぞれのリスク、コストやポテンシャルを取り上げています。
そして「再生可能エネルギーへの投資が最も賢明な選択と言えるのではないでしょう
か?」と述べています。制度面では、炭素税や排出量取引制度をあげています。

著者は国際環境NGOのWWF(世界自然保護基金)の専門官とのことです。よく知
る国際交渉の現場の経験を踏まえて、「公平性を考える視点」はたくさんあるとし、
「どちらが正しいか、という正解はないものなのです。多様な意見を受け入れ、そこ
をスタート地点としてぎりぎりの妥協点を探っていく、というのが実社会における温
暖化対策の交渉でもあります」と述べています。これはジュニア新書の想定読者層を
ふまえて、若い人たちに向けたメッセージとしての意味が大きいのでしょうけれど、
問題にのぞむ著者の基本的なスタンスでもあるのだろうと思います。そうした意味
で、「私はグローバルな地球環境問題の解決のためには、世界が多様であることを肌
身で理解する人が増えていくことが最も大切ではないかと信じています」ということ
ばも印象に残りました。

     須賀 丈



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