From sayasuka_380878 @ kce.biglobe.ne.jp Fri Jan 16 11:28:59 2015 From: sayasuka_380878 @ kce.biglobe.ne.jp (Takeshi SUKA) Date: Fri, 16 Jan 2015 11:28:59 +0900 Subject: [BlueSky:06950] =?iso-2022-jp?b?GyRCS1wkTiQ0PlIycCEnNVwyPEQ+IVhAOEoqQj9NTUAtGyhC?= =?iso-2022-jp?b?GyRCJE4kNyQvJF8kcjJyJC8hWRsoQg==?= Message-ID: <000001d03134$32af15e0$980d41a0$@kce.biglobe.ne.jp> 青空メーリングリストのみなさま 宮下 直『生物多様性のしくみを解く―第六の大量絶滅期の淵から』  2014年 工作舎 という本を読みました。 現代の環境問題には、関係する専門分野が多岐にわたっており、それ が全体像の把握をむずかしくしているものがあります。気候変動を めぐって論争が絶えないこと、生物多様性の問題がわかりにくいと よく言われることも、そこに理由の一端があるのではないでしょうか。 それゆえ問題にかかわる専門家が市民にわかりやすく全体像を語ろうと することには、それだけのむずかしさと価値があるのだと思います。 本書では、生物多様性の問題に生態学的な観点から取り組む研究者が、 “「生態系の治療」という応用問題を、基礎科学の視野から問いなおす” という考え方のもと、生物多様性の進化・生態などの基本原理、種の 絶滅や増えすぎた野生動物・外来種などの問題、生態系の治療などの 対策まで幅広く、またわかりやすく説明しています。全体を通して、 軽い読み物風に書かれていますが、とりあげられるトピックスのひとつ ひとつの背後に、多くの研究や現場での実践例があることを感じさせ てくれます。 たとえば基礎的な面では、“……最近では、共生はごくありふれていて、 しかも生命進化や地球環境の形成の根源になっといると考えられている” というように、研究者のあいだではある種の暗黙知のような了解事項と なっていながら、広く社会には浸透していないと思われるようなことに ついての記述があります。そこから、一方的な搾取にはじまった共生の 起源と進化が語られ、さらに人間社会の競争至上社会から共生社会への 転換がさらりと語られます。 現実の応用問題にも注目すべき記述があります。増えすぎた野生動物と 外来種の問題では、人間社会の側に共通の遠因があると指摘し、また ススキなどの草原の資源のバイオマス利用には「一石五鳥」のご利益が あると述べます。 本書のしめくくりでは、「多様性の共通原理」として、人間の「観点の 多様性」の重要さが取り上げられます。そして“問題解決において、 「多様性」が能力に優れた「一様性」に勝る”ための条件をあきらか にした研究が紹介されます。 幅広い話題を読みやすく紹介した本書は、生物多様性だけでなくさま ざまな環境問題についての議論を、これまでよりも風通しのよいもの にしてくれるのではないでしょうか。     須賀 丈 印象に残った個所を、3つご紹介します。 “日本の地方の競争相手は、国内の観光地ではなく世界なのです。” “地方や田舎の場合は「奇抜なものを作ることが地域発展につながる」 と、今でもまだ信じられているのです。” “例えばパリでは、ルーブル美術館やノートルダム寺院は一度行けば 満足してしまいますが、名もない街の裏通りは、何度歩いても飽きま せんし、記憶にずっと残ります。”         須賀 丈 From sayasuka_380878 @ kce.biglobe.ne.jp Sat Jan 17 16:08:24 2015 From: sayasuka_380878 @ kce.biglobe.ne.jp (Takeshi SUKA) Date: Sat, 17 Jan 2015 16:08:24 +0900 Subject: [BlueSky:06951] =?iso-2022-jp?b?GyRCS1wkTiQ0PlIycCEnMXY4K0Q+NSohWEg+R0BIPhsoQlg=?= =?iso-2022-jp?b?GyRCJEgkJCQmQDgkLUp9IVo3aERqSEchWyFZGyhCIFJlOiAg?= =?iso-2022-jp?b?GyRCRVQ7VCRIRUQ8SxsoQg==?= Message-ID: <000001d03224$629de1f0$27d9a5d0$@kce.biglobe.ne.jp> 青空メーリングリストのみなさま このメーリングリストでの10年以上前のお話のつづきです。 “地方”をめぐる議論が、近ごろ熱を帯びているようです。 安倍政権が「地方創生」を掲げたことや、それに先行して 増田寛也氏を中心としたグループが公表したいわゆる 「増田レポート」に「地方消滅」ということばが掲げられた ことが、その引き金になっているのでしょう。「増田レポート」 には、農山村をフィールドとする研究者から異論も出ています (小田切徳美『農山村は消滅しない』岩波新書、山下祐介 『地方消滅の罠』ちくま新書)。 以前から人口減に直面してきた“地方”の側も消滅するのは いやなので必死です。たとえば今朝の信濃毎日新聞によると、 南信州・下伊那地方の伝統行事(雪祭り・盆踊り・神楽・ 獅子舞・歌舞伎・人形芝居など)が人口減で維持困難になり つつあるため、担い手確保の支援策に県が乗り出すとあります。 その長野県は昨秋、都心にアンテナショップ「銀座NAGANO」 をオープンし、県内の地方の産品の販売や文化の紹介イベント を行っているほか、「移住交流・就職相談コーナー」も設ける など、都市部からの移住者を呼び込もうともしています。 都市から田舎への回帰・移住の流れに国民的な関心の高まり があることは、小田切氏の前掲書なども指摘しています。 これらは政治・行政・研究の動向であり、社会の動きを今後 どう方向づけていくのかという全体的・戦略的な議論や実践 です。しかし地方が都市から移住者を呼び込もうとしても、 実際にUターン・Iターンする人たちが主体的にこれからの 人生設計を具体的にイメージできなければ、田園回帰が現実 のものにはなりがたいでしょう。 それには家・仕事・子育て・学校・医療などの生活基盤も必要 ですが、ひとりひとりの人生の内側に立って考えれば、自分 たちの生き方にどういう意味を見出すのかという人生観のよう なものに形をあたえてくれる手がかりもほしくなるのではない でしょうか。大塚さんがこのMLで紹介してくださった映画 「リトル・フォレスト」(夏/秋編)にも、そういう問いを内に かかえた若い主人公の姿が描かれていたように思います。 今日ご紹介する本は、そうしたテーマに少し別な角度から 迫ろうとしています。 塩見直紀『半農半Xという生き方【決定版】』  2014年、ちくま文庫 このメーリングリストでは2003年に葛貫さんがこの本を紹介 してくださいました。単行本の刊行が2003年、2008年に新書 版が出て、昨年文庫化されました。文庫版では「文庫版 まえ がき」と「第六章 出版一〇年を振り返って」が追加され、 「コミュニティ・デザイン」で知られる山崎亮氏が解説を 書いています。 著者は言います。 “半農半Xということばは私たちが向かうべき二つの軸を示し ている。  一つは人生において農を重視し、持続可能な農のある小さな 暮らしを大切にする方向だ。もうひとつは与えられた天与の才 を世に生かすことにより、それを人生の、また社会の幸福に つなげようとする方向だ。” 著者はことばの才のあるひとで、もやもやとしたイメージを わかりやすい表現に置きかえる達人のようです。それがこの 本の人気の秘密かもしれません。思わず傍線を引きたくなる 箇所が多く、わたしの文庫本は赤線だらけになりました。 “自分の「X」を発見していくには、孤独の時間、一人の時間 がとても大切だ”、“都市から田舎に、旅人がやってくる時代 になった”、“なぜなら、自分を静かに振り返る思想空間が、 今この国に必要だからだ”、“今の世の中はすべてが一代限り の発想になっている”、“シェアという言葉は環境と福祉を つなぐ架け橋となるキーワードでもある”、“田舎は絶好の 思索空間である”、“感性は思考力の源なのである”、“形に なっていくことが自己への最高の癒しとなる”。 こういうひとですから、他人のことばにも敏感です。 “この世で成功するのは、立ち上がって自分の望む状況を 探しに行く人、見つからなかったら作り出す人である” (バーナード・ショーの引用)、“人の世話をすることこそ が、自分がかかわっている問題を解決する最良最短の方法 であり、自分のためにもなっているのである”(新聞への ある投書の引用)、“バリ島では朝早く水田で働いて、暑い 昼は休憩して、夕方になるとそれぞれが芸術家に変身する” (宮内勝典氏の引用)、“天に持っていけるのは人に与えた ものだけ”(聖書の引用)、“世界に変化を望むのであれば、 自らがその変化になれ”(マハトマ・ガンジーの引用)。 「農」と「X」のウェイトでいえば、映画「リトル・フォ レスト」では「農」や「食」に個としてどう向き合うか に大きなウェイトが割かれていたように思いますが、 本書ではこのように、「X」をいかに見つけるかについての ヒントが特にキラキラしているように感じました(もちろん 農についても書かれていますが)。「半農」を実際にやれる のは当分先だろうと思っているわたしなどが読んで面白い のは、そのためでもありそうです。解説で山崎亮氏が書い ているように、広い意味での「コミュニティ」の新鮮な とらえ方に、この著者の持ち味があるのでしょう。 文庫本で追加された「第六章 出版一〇年を振り返って」 によると、台湾・中国大陸・韓国でも本書の翻訳が出て おり、タイでも紹介されたり、カナダやパリからも取材が 来たりしているそうです。コミュニティとは本来ローカル なものですが、それに対する新鮮なとらえ方がある意味で グローバルな浸透力をももっているということかもしれま せん。現代世界のそうしたあり方にも興味をおぼえました。    須賀 丈