[BlueSky:06874] 中沢新一『日本の大転換』について

SUKA Takeshi sayasuka_380878 @ kce.biglobe.ne.jp
2012年 1月 7日 (土) 09:55:32 JST


青空メーリングリストのみなさま

ごぶさたしております。いかがお過ごしでしょうか。
去年は大きな震災や原発の事故があり、このMLでもやりとりがありました。
今日はそれに関連して、最近読んだ本から、おもしろいと思った箇所をご紹介しま
す。最近読んだというだけで、本の選択に深い意味はありません。この本のバランス
の取れた紹介でもありません。わたしだけかも知れませんが、このMLに投稿しようと
するとちょっと肩に力が入りすぎて大仕事になってしまう傾向がありましたので、そ
れをさける試みというようなつもりです。

中沢新一『日本の大転換』集英社新書 2011年8月22日発行
 本の帯にこう書いてあります。
 “3.11以降の我々が進むべき道とは?”
 “新しい「革命」へのマニフェスト”

フランソワ・ケネー、カール・ポランニー、ピエロ・スラッファといった「贈与」の
経済思想を下敷きに、原発の次にくるべき「第八次エネルギー革命」(太陽光・風
力・バイオマスなど)に文明史的意味づけをあたえようとしています。

広義の経済には、「贈与」と「交換」という2つの次元がある、グローバル化した資
本主義は「交換」だけを肥大化させて自閉している、生態圏の外部から異質なエネル
ギーを取り出す原発がその原動力となってきた、第八次エネルギー革命は太陽や生態
圏からの「贈与」の次元を回復させることになるだろう、といった主張です。

以下、おもしろいと思って線を引いた箇所を引用します。
“ ”内が本からの引用、→以下はわたしのコメントです。

“神話とは、媒介のメカニズムを使って生態圏の出来事を解釈する哲学的思考のこと
を言う”
→太陽由来のエネルギーの変換で生ずるさまざまな自然現象(雷や洪水や山火事な
ど)が、その変換を媒介する神々によって説明されることを言っています。この多神
教的な思考に対して、原発は「一神教的技術」であるとされます。

“資本主義は、つぎのエネルギー革命が起きるとき、ラジカルな変容をせまられるこ
とが予想される。”
→現代のグローバル化した資本主義経済が、石炭・石油・原子力などによって実現
し、拡大してきたことから、エネルギー革命と広義の経済の変容が一体であることが
指摘されています。

“昔の人間は、存在世界の根底を支えているのが、この贈与性という不思議な原理で
あることを、はっきりと認識していました。”
→この本のベースにある人類学的思考がよく現れている箇所だと思います。

“重農主義者たちは増殖がもたらされる要因を「純粋な自然の贈与」と呼びました
が、これは私たちの視点からすれば、太陽エネルギーの媒介的変換にほかなりませ
ん。”
→著者は触れていないのですが、この「贈与」の経済思想と昨今の「生態系サービ
ス」の環境経済学との類似性にわたしは興味をそそられました。両者のあいだには系
譜的なつながりもあるのではないか、と思いました。

“適度な休暇と自由な環境のなかでしか、良いアイデア、つまり無意識からの良い贈
与がおこらない”
→広義の経済に2つの次元があるように、脳にも意識と無意識の2つの次元があり、
両者が同じ構造をもっていることを述べています。

全体として、めざましく新しい主張があるというより、多岐にわたる話題を、巨視的
かつ柔軟につないでいく話の展開の仕方に持ち味が発揮された本だという印象です。
その意味で、多くの読者にとって思考の触媒となる面をもった本ではないでしょう
か。

よい年となりますように。

                       須賀 丈



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